「家族のこと」

「家族のこと」

おとうさん
わたしのおとうさん
しごとにんげんおとうさん



月一回のゴルフ
食前に焼酎のお湯割り
お酒に弱いから
30分経てば立派なユデダコだ


あたたかい食卓
仕事ばかりで
週末は博打
土曜日と日曜日の夜10時半
家に帰ってくると
花瓶を割ったりカーテンを引き裂いたり


母と妹とわたし
週末の日付けが変わるころ
おんな三人怯えてた


わたしの成長の過程も
あまり覚えていないみたい


わたしが小学五年生のとき
コンクールに出す絵を描く時間
花瓶に生けた花を描いた
わたしは花びらの色を
目の前にある絵の具で
どうやって混ぜて作れば
この本物の花と同じ色になるんだろうって
考える時間が楽しくて仕方がなかったよ
時間をかければかけるほど
本物の花の色に
どんどん近づいてく

絵を描いている時だけは
何もかも忘れられていて

一生懸命描いた絵
わたしが最後まで仕上げた絵
家に持って帰ってきたけど
知らんぷりぷり知らんぷり

わたしはいつもここに居るよ

反応がないのは
いつまでたっても慣れることはなくて
赤ん坊のまんまのわたし
ただ誉めてほしかったんだ
ただ それだけだったんだ


どうすれば誉めてもらえるの?って
そのことばかり考えて

学校ではいじめられているから居場所なんてないわけだし
家の中での居場所を見つけるしかなかったから探しつづけた


お母さんは
とても優しくて
私のすべてを包んでくれる
料理は上手だし
きれいなお母さん
若くしてわたしを産んでくれました
はじめてのパートは
スーパーのお掃除の仕事
次は別のスーパーで野菜の陳列を
またその次は別のスーパーでお花屋さんを
お母さんはお花が大好きで
センスだってピカイチだ
お酒コーナーの仕事に移り
最後にまわされたコーナーは
パン屋さん

朝早くに家を出て
パンをこねこね
重たいオーブン
お母さんの指は曲がってしまったけれど
いつでも笑顔は絶やさない
おおきくてあったかくて
自慢のお母さん



妹はここ二年ですごくまあるくなった
いろんな意味でまあるくなった
こんなことを書いたから後で怒られるからこれだけにしておくね

唯一の同世代の友達
喧嘩をしてもやっぱりかわいい
妹だから全部がかわいい
自慢の妹
この辺にしておくよ



今日も一生懸命頑張ったんだけどね
やっぱりお父さんは
わたしに興味を示してはくれないよ
お父さんの言葉足らず!
母親想いの立派な息子のお父さん
情が厚くて義理堅い
ほんとうはやさしくて
笑った顔も良いけれど
愛犬と話をしている時が
一番良い顔してるね

最近一緒に行けていないけど
ゴルフのコースをまわってて
山ってええな
ゴルフって最高やな!
って言ってる時の顔が
一番いきいきしてるね

今日は夕ごはんの時
「お父さんの話す言葉の語尾が
里芋みたいになったよ」
って言ってみたら
「ははっ!そうか?」
って照れくさいのかな
有耶無耶にしていたね
お父さんもこの家を守ろうと
一生懸命

一生懸命だけど空回り

わたしとおんなじお父さん

明日声をかけてもらえたら
わたしの涙はとまるだろう

不完全な私たちは
今夜も静かに離れた



昨日の哀しみは
今日に花を添え
今日の涙たちは
明日の笑いに変わればいい